深呼吸の必要

2005年6月27日
深呼吸の必要
*****70pより引用*****

「おおきな木」 長田 弘

 おおきな木をみると、立ちどまりたくな
る。芽ぶきのころのおおきな木の下が、きみ
は好きだ。目をあげると、日の光りが淡い葉
の一枚一枚にとびちってひろがって、やがて
雫のようにしたたってくるようにおもえる。

夏には、おおきな木はおおきな影をつくる。
影のなかにはいってみあげると、周囲がふい
に、カーンと静まりかえるような気配にとら
えられる。
 
 おおきな木の冬もいい。頬は冷たいが、空
気は澄んでいる。黙って、みあげる。黒く細
い枝々が、懸命になって、空を掴もうとして
いる。けれども、灰色の空は、ゆっくりと旋
るようにうごいている。冷たい風がくるくる
と、こころのへりをまわって、駆けだしてゆ
く。おおきな木の下に、何があるだろう。何
もないのだ。何もないけれど、木のおおきさ
とおなじだけの沈黙がある。

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