「バスを待つ人」という言葉。誰かの歌にもあったっけ。わたしもバスを待つ人の表情をつい見てしまう。必ず見てしまう。どうして気になるんだろう。怒ったような顔している人、もの悲しい顔している人、うつむいている人、車通りを見据えたままタバコをふかす人、メールを打つ人、日傘を差して首から下しか見えない人、談笑する人々、ハンカチを握りしめている人。
今夜のバス停には、小さな女の子とお母さんとベビーカーが見えた。女の子は、ベンチの背もたれに頭をもたせかけ、ポカンと口を開け眠っている。隣にいるお母さんもどうやら眠っているようだ。時刻は22:45。わたしは反対車線から親子を眺め「子どもがベンチから落ちてしまいませんように」と念じた。
帰り道、23:00。女の子が泣いていて、お母さんはまだ眠っている。不審がられてもいいと覚悟を決め、車をバス停のそばに停める。ベビーカーの中には赤ちゃんがすやすや眠っていた。お母さんに声をかけるも全く起きない。3回目に肩をたたいたときに酒が匂った。さぁて困ったぞ…お母さんはともかく、女の子を泣きやませなくては。ひきつりながらしゃくりあげ、右手を小刻みに胸の当たりでひらひらさせるその子に「大丈夫だよ、何にもしないからね、ふたりでお母さんを起こそうよ」と話しかけても、余計にパニックに陥るだけ。さぁて困ったぞ。
そうこうしているうちに二人連れの女性が通りかかった。わたしと同じように「帰り道にまだ眠っていたら起こさなくっちゃ」と思っていたんだそうだ。なんでも同じ居酒屋の隣合わせの席でたまたま飲んでいたこともあり、見過ごせなかったと言っていた。困惑しながら3人で泣く子をあやしたりお母さんをゆすったりしていたが、そのうちに斜向かいの鮨屋から女将さんが飛び出してきた。「全くどういうことなのよ!こんな小さい子をふたりも連れてさ! …あんたのお母さんはどっちなの!」。
女の子はなぜかわたしを指さして飛びついてきた。
ついには警官も来た。さすがにお母さんも「やばい事態」を察したらしい。でも埒があかない。警察沙汰になるとだんなさんに怒られる、とか、酔ったまわらぬ頭で計算するんだろう、電話番号が訊くたび違う。おうちはどっち?に答える指先の方向があべこべになる。女の子はわたしの胸でまた眠ってしまった。赤ちゃんは大物で一度も起きたりしない。しびれを切らした警官が「じゃあわたしと一緒に歩いて帰りましょう」とバイクを降りた。
「じゃあ選んだら?おまわりさんと帰るか、あたしの車に乗って帰るか」。警官に目で”いいでしょう?”と問いかけながら申し出ると、女の子がやったのとそっくりなやり方でお母さんはわたしを指さした。ベビーカーをトランクに入れ、親子を積み込み、集まった人々に手を振りながらバス停をあとにする。
くるくると曲がり角を何度か間違えたり行き過ぎたりしながらたどり着いたのは、真新しい豪華なマンション。明るい照明の下で見た子どもたちはほっぺが黒く汚れていたけれど、髪の毛からはシャンプーのいい匂いがしていたし、ふたりとも肉付きがよかった。心配いらない。きっと普段はよい母さんなんだろう。
警官の携帯番号を渡されていたので、帰り途中のコンビニの駐車場から電話して任務完了を告げた。苦笑していた。
バス停にはいろんな人がいる。
今夜のバス停には、小さな女の子とお母さんとベビーカーが見えた。女の子は、ベンチの背もたれに頭をもたせかけ、ポカンと口を開け眠っている。隣にいるお母さんもどうやら眠っているようだ。時刻は22:45。わたしは反対車線から親子を眺め「子どもがベンチから落ちてしまいませんように」と念じた。
帰り道、23:00。女の子が泣いていて、お母さんはまだ眠っている。不審がられてもいいと覚悟を決め、車をバス停のそばに停める。ベビーカーの中には赤ちゃんがすやすや眠っていた。お母さんに声をかけるも全く起きない。3回目に肩をたたいたときに酒が匂った。さぁて困ったぞ…お母さんはともかく、女の子を泣きやませなくては。ひきつりながらしゃくりあげ、右手を小刻みに胸の当たりでひらひらさせるその子に「大丈夫だよ、何にもしないからね、ふたりでお母さんを起こそうよ」と話しかけても、余計にパニックに陥るだけ。さぁて困ったぞ。
そうこうしているうちに二人連れの女性が通りかかった。わたしと同じように「帰り道にまだ眠っていたら起こさなくっちゃ」と思っていたんだそうだ。なんでも同じ居酒屋の隣合わせの席でたまたま飲んでいたこともあり、見過ごせなかったと言っていた。困惑しながら3人で泣く子をあやしたりお母さんをゆすったりしていたが、そのうちに斜向かいの鮨屋から女将さんが飛び出してきた。「全くどういうことなのよ!こんな小さい子をふたりも連れてさ! …あんたのお母さんはどっちなの!」。
女の子はなぜかわたしを指さして飛びついてきた。
ついには警官も来た。さすがにお母さんも「やばい事態」を察したらしい。でも埒があかない。警察沙汰になるとだんなさんに怒られる、とか、酔ったまわらぬ頭で計算するんだろう、電話番号が訊くたび違う。おうちはどっち?に答える指先の方向があべこべになる。女の子はわたしの胸でまた眠ってしまった。赤ちゃんは大物で一度も起きたりしない。しびれを切らした警官が「じゃあわたしと一緒に歩いて帰りましょう」とバイクを降りた。
「じゃあ選んだら?おまわりさんと帰るか、あたしの車に乗って帰るか」。警官に目で”いいでしょう?”と問いかけながら申し出ると、女の子がやったのとそっくりなやり方でお母さんはわたしを指さした。ベビーカーをトランクに入れ、親子を積み込み、集まった人々に手を振りながらバス停をあとにする。
くるくると曲がり角を何度か間違えたり行き過ぎたりしながらたどり着いたのは、真新しい豪華なマンション。明るい照明の下で見た子どもたちはほっぺが黒く汚れていたけれど、髪の毛からはシャンプーのいい匂いがしていたし、ふたりとも肉付きがよかった。心配いらない。きっと普段はよい母さんなんだろう。
警官の携帯番号を渡されていたので、帰り途中のコンビニの駐車場から電話して任務完了を告げた。苦笑していた。
バス停にはいろんな人がいる。
コメント
いい話ですね。私が見かけたら同じ事が出来るかどうか。
そのお母さん、反省してくれたと思いますよ^^。
そんなふうな親子でした。今日職場で若い女の子に
「妊娠したら今までと食の好みが変わるってホントですか」って
聞かれたんだけど、sakiさんはどうですか?
わたしはカレーとか肉が受け付けない体になっちゃったんだ、
4人どの子のときも。
思わないことを願います…。
お疲れ様でした。